こんにちは。
神戸三宮鍼灸接骨院SORA院長の藤原直人です。
前回の特集では、シニア世代にとって「動ける体は最高の資産」というテーマでお話をいたしました。
今回はその実践編として、私たちが日常的に行っている「歩く」ということ――つまり毎日の「ウォーキング」に深くスポットを当てていきます。
健康寿命を延ばす鍵は「歩き続けること」にある
現在の日本は世界有数の長寿国ですが、「平均寿命」と自立して生活できる期間を示す「健康寿命」の間には、男性で約9年、女性で約12年もの差があります(令和4年)。つまり、長く生きることと、元気に動き続けられることは、必ずしも同じではないというのが現実です。
この差を縮め、最期まで健やかに暮らしを楽しむための答え、それこそが「自分の足で歩き続けること」にほかなりません。
現代病の多くは「歩かないこと」が原因と言われており、ウォーキングには糖尿病、高血圧、認知症、うつ病、変形性膝関節症といった様々な疾患の予防効果が証明されています。
しかし、ただ闇雲に歩けばいいというわけではありません。「良かれと思ってやっていること」が、実は足を痛める原因になっているかもしれないのです。
今回は、治療の現場から見えてきたウォーキングの「新常識」をお届けします。
なぜ歩き続けると痛くなるのか? 体のゆがみと「重力」の関係
「健康のためにウォーキングを始めたら、膝や腰が痛くなって中断してしまった」という声をよく耳にします。なぜそのようなことが起きるのでしょうか。
① 体の運動機能に関する「誤解」
私たちは歩くとき、無意識に「ひざ(太もも)を高く上げ、大股で、踵(かかと)から着地して歩く」のが正しいと考えがちです。しかし、これは体の運動機能から見ると大きな誤解です。
▪歩くとは「重心が移動すること」
ひざを無理に高く上げる必要はありません。
▪踵に衝撃吸収機能はない
踵からドスンと着地すると、その衝撃はダイレクトに膝や腰へ伝わります。衝撃を吸収する本来の機能は、踵ではなく「足部(そくぶ)」に備わっているのです。
② ゆがみの根本原因は「重力への対処」
人間の体は、多かれ少なかれゆがみを持っています。その原因は生活習慣や加齢、筋力低下だけでなく、実は「遺伝」によって作られた骨格がベースにあります。
この骨格に対して、常に上から「重力」がかかり、押しつぶされようとしています。 この重力を受け止める土台が「足部」です。足部が過度にサポートされた履物などによって本来の機能を果たせないとき、ゆがみが表面化し、歩行時の痛みとなって現れます。
ゆがみを根本的に改善するカギは、筋力アップではなく「重力にいかに対処できるか」にあります。
【ゆがみチェック】
あなたの靴はどんな減り方をしていますか?
ご自身の靴の底を見てみてください。靴の減り方には、体のゆがみが顕著に表れます。減り方がひどい靴で歩き続けると、さらに体をゆがめて痛みを引き起こす原因になります。こまめなチェックをおすすめします。
また、歩き出す一歩の原動力となる「軸足(じくあし)」を知ることも大切です。以下のチェックで、ご自身の軸足がどちら(右・左)か確認してみましょう。
チェック1
高いところから下をのぞき込むとき、どちらの足が前に出ますか?(前に出る足 = 軸足)
チェック2
立ち話をしているとき、どちらの足に体重がかかっていますか?(体重がかかっている足 = 軸足)
チェック3:
立ち止まるとき、どちらの足が踏ん張りやすいですか?(踏ん張りやすい足 = 軸足)
体のゆがみを改善するのに年齢は関係ありません。圧迫骨折などの病歴がある方でも、「あきらめないこと」で歩き続ける体を取り戻すことができます。
歩き続けるための靴選びと「土踏まず」の秘密
正しい歩き方を支えるために、最も重要なのが「靴選び」と「靴ひもの締め方」です。流行やデザイン、あるいはクッション性ばかりを重視して、足の動きを制限していませんか?
① 「足部(土踏まず)」が持つ驚くべき4つの機能
人間の足裏にある「土踏まず(三本ある足弓・アーチ)」は、歩行において極めて重要な役割を担っています。
- クッションの機能: 上からかかる衝撃を吸収する能力
- バネ作用の機能: 前へ進むための推進力を生み出す能力
- バランス調整の機能: 姿勢を保持し、体のバランスを整える能力
- 循環機能促進の機能: 「第二の心臓」として血液の循環を助ける能力

土踏まずがきちんと上下に動くことで、これらの機能が発揮され、立ち姿勢や歩行姿勢のコントロール、ひざや腰の負担軽減、転倒・傷害予防、さらには心肺機能の補助にまで関係してきます。
② 土踏まずの邪魔をしていませんか?
現代の靴には、土踏まずの機能を奪ってしまう落とし穴がたくさんあります。
- サポート機能が強すぎる履物の使用
- フィット感を高めるインソール(中敷き)の過剰な使用(アーチサポートが逆に土踏まずの動きを邪魔することがあります。中敷きの土踏まず部分をはさみでカットするだけで、劇的に動きやすくなることもあります)
- アーチサポートがついた靴下の使用
- 靴ひものしめすぎ
- ふくらはぎをしめつけるサポーターの使用
特に「靴ひものしめ方」の勘違いは深刻です。
フィット感を高めようといつもギューギューにきつく締めていると、足の動きが止まってしまいます。その結果、転倒、足が上がりにくい、足がつる、冷え性、むくみ、静脈瘤などのトラブルを引き起こします。
【正しい靴ひものしめ方】
ひもを締めるときは、「足指をグッと曲げた状態」で締めてください。締め終わったあとに足指を元に戻すと、足がきちんと動く適度なゆとりが生まれ、足にストレスを与えない正しい履き方になります。
また、靴を選ぶ際は「足長(サイズ)」だけでなく「足幅(足囲:E、EE、3Eなど)」の2つの要素を確認し、靴を履いた状態で圧迫感がなく、足指がグー・パーと自由に動くか必ず確認しましょう。
常識を疑え!ウォーキング前のストレッチは本当に必要か?
一般的には「運動前にはしっかりストレッチをすべきだ」と言われていますが、実は過度な事前ストレッチは必要ありません。
ウォーキングの前に過度なストレッチを行うと、筋肉が弛緩(緩んだ)状態になり、重力に対して素早く反応できなくなります。つまり、踏ん張りがきかなくなり、むしろ転倒などの危険性が高まるリスクがあるのです。欧米のスポーツチームでは、事前のストレッチを廃止している事例もあるほどです。
大切なのは、ストレッチで筋肉を伸ばすことではなく、「重力に対応できる身体の状態を準備すること(運動準備)」です。身体の筋肉や関節を徐々に活性化させるための、オススメの準備運動をご紹介します。ウォーキングの前にその場で行ってみてください。
【いつでも歩き続けるための準備運動(その場で行えるメニュー)】
※ご自身の体調と相談して、決して無理におこなわないようにしてください。不安定になるときは、手すり等につかまっておこなってください。
① 指の運動
座った状態でも可。手と足の指を同時に「グー・チョキ・パー」と動かす。
手足を同時に動かすことで、動きづらい足指も動きやすくなり、地面を踏ん張る力が養われます。
② 手の運動
その場で瞬間的に、手を素早くグッグッと握る。
腕の筋作動の準備になります。
③ 手と足をあわせて押し合う
胸の前で両手をあわせて、グッと押し合う。
上半身の筋作動の準備になります。
④ もも上げ運動
左右交互にもも上げをおこなう。下半身の筋作動の準備。
手を同時に使うと、より太ももが上がりやすくなります。着地時にしっかり地面を踏み込み、地面からの反力を感じてください。
⑤ ペダル踏み
右足はつま先、左足は踵(かかと)で立ち、それを交互に繰り返す。
少しヒザを曲げるとおこないやすくなります。股関節の準備運動になります。
⑥ つま先立ち
軽くつま先立ちになり、踵を「ドスン」と地面に落とすイメージでおこなう。
体に重力による重さの感覚と、体幹を感じさせます。
⑦ 垂直ジャンプ
その場で軽くピョンとジャンプをおこなう。
体に重力の重さに対する感覚を感じさせます。
⑧ 後ろ歩き
必ず周囲の安全を確認してから、後ろに向かって数歩歩く。通常の歩行時につま先側から踏み込みやすくなり、過剰な踵着地を避けることができます(2、3歩でも効果があります)。
自分の足で、いつまでも人生を楽しむ
「歩く」ということは、単なる移動手段ではなく、私たちの健康と人生の豊かさを支えるベースそのものです。間違った常識にとらわれて足を痛めてしまうのはもったいないことです。
正しい靴選び、正しいひもの締め方、そして重力に対応するための適切な準備運動を取り入れることで、あなたの足は本来持っている素晴らしい機能を小気味よく発揮し始めます。
準備運動を終えたら、外の空気を吸いに出かけましょう。地面をしっかりと感じながら、いつまでも自分の足で歩く旅を、みなさんで一緒に楽しんでいきましょう。
残暑期のウォーキングについて
暦の上では秋を迎えましたが、9月中はまだまだ厳しい残暑が続いております。本記事では歩くことの大切さや正しい歩き方についてご紹介いたしましたが、日中の気温が高い時間帯の屋外ウォーキングは無理をせずお控えください。
(執筆者)
藤原直人(ふじわら なおと)
神戸三宮鍼灸接骨院SORA 院長

