(北海道移住(一)より続く)
1回目の下見を終えて、美瑛町と新築という二つのこだわりがなくなると、二人の関心は家の内外装や設備に移行した。
主に裕子の要望をもとに相談の結果、またしても幾つかの柱がクッキリとした。
〇小さくても庭があること
〇対面キッチン
〇三角屋根
〇非オール電化
〇築年数30年以内
これらに相談済みの予算を条件として、旭川、及び近郊の東神楽町、東川町で該当する中古住宅を探すことが、2回目の下見までの半年間、二人の楽しみとなった。
情報収集
このサイトさえ見ていけば、次の下見旅行はバッチリだよ・・?
この作業はネットでの検索が中心だが、信二は1回目の下見の時から大手不動産会社や地元の会社が運営するサイトを中心に調べてきた。
ところが、その時間が増えてくると、情報に一貫性がないことや、あちこちのサイトを見て回る煩雑さが気になった。
そんな折、信二の頭に1回目の下見旅行中に不動産会社の担当者から聞いたあるキーワードが、それを解決してくれるのではとの閃きが沸いた。
しかし、その単語自体を思い出せなかったので、思い切ってその担当者に電話をして聞いてみた。
『ああ、アイ・アール・アイですか』
それだ、と思った。御礼を言って電話を切って検索した。
【IRI・旭川不動産情報】というそのサイトでは、近郊を含む旭川地域の3千件(賃貸物件も含めて)を超える物件情報が網羅されていた。
写真、価格、土地面積、築年、間取りなどの必要情報が統一フオームで紹介されている。加えて、各物件の担当不動産会社情報も記載されていた。信二は笑顔で裕子に言った。
『これさえ見て、条件に合う物件をピックアップしておけば、次の下見旅行はバッチリだよ』
ところが、こうした便利さを手に入れた喜びは、皮肉なことに間もなく思わぬ思いに取って代わってしまう。
他の人で決まってしまいました
2回目の下見旅行は3泊4日として、午前の便で旭川に飛び、その日の午後と翌日の午前、午後でそれぞれ2軒ずつ、合計6軒を見ることにした。そして、2日日目夕方にはその中から一つを選び、契約の意思を伝えて、3日目は契約作業の日とする。
そう計画して航空券予約をした一か月前には、IRIからピックアップした6軒の物件に対して訪問予約を入れて、準備を終えることができた。
その過程で、二人は旭川市内の2軒と東川町の1軒が特に気に入り、不動産会社より詳細な資料も郵送してもらった。
『この3軒の中であれば、どこに決まっても良いわね』
裕子もそう言っていた。しかし、そのひと月の間に東川町と旭川の1軒を扱う不動産会社から相次いで信二の携帯に電話がかかってきた。
『申し訳ないですが、他の人で決まってしまいました』
下見まであと1週間と迫った時点で受けた電話を切った後、二人は消えた2つに替わる物件をIRIから見つけて予定に組み込んだが、落胆は小さくなかった。
今すぐに旭川に見に行って、残る一つを決めてしまいたい。
出来るはずもないと分かっていながら、強い誘惑に襲われた。
2回目の下見旅行
最後の1軒が残っていますように
二人の仕事の都合から決めた4月7日からという今回の日程は、気づいてみれば、世の中の《引っ越しシーズン》の終盤に位置していた。
最後の1軒が我々が行くまで残っていますように。
そう願う気持ちは出発の朝、飛行機に搭乗するまで消えなかった。
幸いその1軒に私達は現在暮らしている。この家が残っていた理由は、今では分かっている。
4月の時点では、まだこの家を建てた前所有者夫妻が住んでいた。
家の中までも案内してくれた奥さんが言われた。
『私達が移る札幌の家が住めるようになるのが、6月の後半なので。すみません』
『いえ、私達も7月まで引っ越せないので、大丈夫です』
そう返事した時、信二の声は甲高いものになっていた。
世の中の引っ越しシーズンを念頭に置かずに行なった二人の家探しは、運に恵まれて無事に終わった。
P.S.
今回下見した5軒は、事前情報では二人の抱いた条件をほぼ満たしていたけれど、実際に現地で見てみると、受け入れ難い不思議なものが付いている家もあった。。
その家には、2階の二つある部屋の大きな部屋の方に段差が付いていた。10畳程のその洋間だけが周囲の廊下から15センチ位もち上がっていた。
『何の部屋ですかね』
そう信二は案内をしてくれた担当者に聞いてみたが、分からないとのことだった。
『娘さんがバレリーナでも目指していたのかな』
裕子が言った言葉で、信二はその姿を想像してみたが、武道の練習場の方が合っているような気がした。
北海道旭川市在住 信二

