現役時代、近所での買い物といえばコンビニに立ち寄る程度で、スーパーは週末に妻の“お供”として行く場所だった。私はただ黙って後ろをついて歩くだけ。食料品売り場では、きっと退屈そうな顔をしていたに違いない。ところが退職後、家にいるのが当たり前になったある日、「家事を少し覚えてみよう」と思い立った。掃除や整理、料理など、これまで妻に支えてもらっていたことに挑戦してみようと思ったのだ。あれこれ調べながらやってみようと決め、洗剤や日用品、食材を求めてスーパーへ自分から足を運ぶようになった。
すると、今までとはまるで違う景色が見えてきた。
まず驚いたのは、その品数の多さだった。
そして何より大変なのが、“どこに何があるか”を覚えることだ。
キョロキョロしながら店内を歩き回る。卵を探して右へ左へ、豆腐を探してまた右へ左へ。気づけばスマホの歩数計が1000歩を軽く超えている。大型店舗なら、さらに歩くことになるだろう。店内だけでこれだけ歩くのだから、なかなかのウォーキングである。ただ、どうしても見つからない時は少しイライラする。店員さんに聞くのが一番早いのだが、このご時世、忙しそうな店員さんに声をかけるのも気が引ける。商品配置も、省力化のためか、なかなか独特だ。
「探すのも楽しみのうちですよ」
そんなスーパー側のメッセージなのかもしれない。
通う店を決めて、商品の並びや店の特徴に慣れていくのがコツなのだろう。彼を知り己を知れば百戦危うからず、である。最近は、一部の大型書店で見かけるような「売り場案内」がスーパーにもあれば便利なのに、と思う。AIの時代なのだから、スマホで棚の表示を読み取れば売り場地図が出てくる――そんな未来も、そう遠くない気がする。
さて、スーパーへ行く時間帯を、いつもの夕方から変えてみると、新たな発見があった。
妻いわく、
「夕方は品切れが多いよ」
さらに、
「開店直後は品出し作業があるから、少し時間をずらした11時ごろがちょうどいいかも」
とのこと。なるほど、午前中のほうが新鮮な野菜が揃っている気がする。スーパーに通うようになってから、私は“日付チェック”という新たな技も身につけた。できるだけ奥のほうの商品を取る……などと、ここで告白していいのだろうか。
午前11時のスーパーは、見事にシニア世代が多い。
若い人たちは仕事へ、主婦の方々は家事に忙しい。その結果、この時間帯はシニアたちの活動時間になっているのだろう。
男性シニアも意外に多い。彼らはきっと、私よりずっと前からスーパーの面白さを知っていたのだろう。できれば気軽に声をかけて立ち話でもし、いろいろ教えてほしい気もする。もっとも、突然話しかけたら迷惑かもしれない。いや、でも困っている人を見つけたら、
「それなら、あっちですよ」
と案内してみたい。スーパー歴まだ1年足らずの私が言うのも何だが、売り場を把握しているのは、ちょっとした自慢になる。
気づけば週に3〜4日も通うようになり、すっかりスーパーのファンになってしまった。新商品を眺めて知識を広げたり、旬の食材から季節を感じたり、そんな時間が楽しい。商品の見分け方、レジでのスマートな支払い、ポイントの使い方、買い物袋への詰め方――。
妻の足元にはまだ及ばないが、少しずつ覚えていけばいい。そんなわけで、次はどんな発見があるのかを楽しみに、明日もまた午前11時のスーパーへ向かうつもりだ。
おむこさん

