こんにちは。神戸三宮鍼灸接骨院SORA 院長の藤原直人です。
私はこれまで20年近く、延べ数万人の方の体と向き合ってきました。そして、施術の現場ではいつもお伝えしていることがあります。
お金を貯めても、寝込んでいたら意味がない。動ける体こそ、人生最高の資産です。
老後資金の話はよく聞きます。資産運用の情報もあふれています。しかし、肝心の「体の運用」については、意外なほど無頓着な方が多いのが現実です。
シニア世代にとっての真の富とは「循環する体」です。血が巡り、筋肉がしなやかに動き、呼吸が深い。それだけで、心は前向きになり、食事は美味しくなり、充実の毎日が送れます。
今日は、そのための「体の資産運用術」を、私の言葉でお伝えします。
私たちは「椅子の奴隷」になっていないか
――「座りっぱなし」が血流を止める?
私たちの生活は、椅子に座ることに支配されています。食事も、読書も、テレビを見るのも椅子。
最近、アメリカでは『座りすぎ病(シッティング・ディジーズ)』が問題視されています。座り始めて約30分で全身の血流は70%低下し、血流が滞れば、筋肉は酸欠状態になります。酸素が届かなければ、筋肉は硬くなり、やがて痛みに変わります。私はこれを「停滞の病」と呼んでいます。
まずは『座っていると30分に一度は立つ』、これだけで体は変わります。
足首の柔軟性が「歩行寿命」を決める
――江戸時代の暮らしに学ぶ「足首」の力
私はよく、健康のヒントを自然界や江戸時代の生活に求めます。
日本の歴史で見れば、江戸時代までは「椅子に座る」という習慣はほとんどなく、畳の上での「正座」や「あぐら」、あるいは「立つ」動作が基本でした。また当時の人々は1日3万歩を歩くことも珍しくありませんでした。それを支えていたのが「足首の柔軟性」と「履物」です。
現代の欧米的な考え方では「正座は膝に悪い」と敬遠されますが、実は正座は足首を限界まで伸ばし、しなやかさを保つための素晴らしいストレッチでもありました。正座で足首を整えていたからこそ、彼らはわらじ履きで東海道を歩き通せたのです。
もしあなたが「最近、歩くのが遅くなった」「つまずきやすくなった」と感じているなら、それは筋力の低下ではなく、「足首のロック」が原因かもしれません。足首が固まると、歩行時の衝撃を逃がせなくなり、そのツケが膝や腰に回ってきます。
膝が悪くて正座ができない方は、無理をする必要はありません。お風呂の中で関節を緩めたり、歩き方を見直したりすることから始めましょう。
靴選びの落とし穴
――クッション性が「足首」を固める
シニア世代の多くが「クッション性の高い靴」を選びます。ですが、私は慎重になるようお伝えしています。
フカフカの靴は一見、膝に優しいように思えますが、実は足裏の感覚を麻痺させ、土踏まずのアーチを甘やかしてしまいます。
砂浜の上を歩くのを想像してください。足元が不安定だと、体は必死にバランスを取ろうとして関節をねじらせます。厚すぎるクッションの靴は、これと同じ状態を作ることがあり、また長く歩く、速く歩くことも至難の業です。
江戸時代の草履やわらじは、平らで薄い構造でした。地面の感覚がダイレクトに伝わるからこそ、足裏の筋肉が目覚めます。クッションに頼るのではなく、自分の足の土踏まずで衝撃を吸収する力を取り戻すこと。
それが「歩ける体」への近道です。

健康習慣は「10円玉貯筋」でいい
「運動をしなきゃ」と身構える必要はありません。
私は辞書で「動く」という言葉の語源を調べてみたことがあります。そこには「止まっている状態が少ないこと」という記述がありました。 漢字の「歩く」も、「止まる」という字に「少ない」と書きます。
つまり、激しいトレーニングを1時間するよりも、「じっとしている時間をいかに細切れにするか」の方が、体にとっては価値があるのです。置物のように固まるのではなく、動物らしく常に身軽に動くことです。
私は患者さんに、健康の維持を「貯金」ならぬ「貯筋」に例えて説明します。 週末のジムや長距離のウォーキングは「500円玉貯筋」のようなものです。もちろん立派なことですが、なかなか続きません。
それよりも大切なのは、日常の中でこまめに動く「10円玉貯筋」です。座り時間をコントロールし、よく歩き、よく噛むこと。この積み重ねが、血管の老化を食い止め、血流という「利子」を生み出し続けます。
今日からできる10円玉貯筋(習慣)
■第二・第三の心臓を動かす
血流を促すポンプは、心臓だけではありません。
・第二の心臓(ふくらはぎ)
立ち仕事の合間に「かかと落とし」をする。あるいは、座りながら貧乏ゆすりをするだけでも、血流の低下は半分以下に抑えられます。
・第三の心臓(前腕)
手を握ったり開いたり、日常の家事で手先を動かすことも、全身の血流改善に寄与します。
■「噛む」ことは体幹トレーニング
意外なことに、「噛む力」と「歩く力」は密接に関係しています。顎の力と握力、そして足の踏ん張る力は比例関係にあります。
よく噛むことで消化管が連動し、体の中心を通る筋肉が刺激されます。
つまり、食事をしっかり噛むこと自体が、最高の内臓トレーニングであり、体幹を鍛える行為なのです。
■立ち食い・立ち作業のすすめ
「行儀が悪い」と言われるかもしれませんが、あえて椅子をなくし、立ちながら何かをする時間を作る。これは、海外の先進的な企業でも取り入れられている「スタンディング・ワーク」の考え方です。
腰掛ける時間を「休憩」と捉え、基本は「立つ」という江戸時代のスタンスに少しだけ戻ってみませんか。
【藤原流・貯筋メソッド】
座る時間を減らすことは、歩くことやジム通いよりも体に大きな恩恵をもたらします。
私が提唱している「貯筋」は、日常の中で“どれだけ動ける時間を増やせるか”という考え方です。
10円玉貯筋:よく噛むこと
食事でしっかり噛むだけで、体幹が働き、全身の連動性が高まります。
100円玉貯筋:歩く(+軽い運動)
無理のない範囲で歩く習慣を積み重ねることが、体の循環を育てます。
500円玉貯筋:座り時間のコントロール(ちょこちょこ動く)
30分に一度立つ、こまめに姿勢を変える。これこそが、最も大きな「利子」を生み出す健康投資です。
現代人に足りない最後のピース「マグネシウム」
どれだけ体を動かしても、栄養が伴わなければ資産は目減りします。 特にシニア世代の皆さんには、数多くのミネラルの中でも優先して意識してほしいのが「マグネシウム」です。
■筋肉の「弛緩」を司るミネラル。大切なのはカルシウムとのバランス
実は、日本人の95%がマグネシウム不足だと言われています。
カルシウムが筋肉を「収縮」させるミネラルなら、マグネシウムは筋肉を「弛緩(ゆるめる)」させるミネラル。不足すれば、筋肉は常に緊張し、つりやすく、凝りやすくなります。そして骨づくりにおいても重要な役割を担っています。
以下のような習慣がある方は要注意です。
・コーヒーやアルコールが好き
これらを代謝・解毒する過程でマグネシウムは大量に浪費されます。
・甘いものが好き
糖分をエネルギーに変える際にもマグネシウムが使われます。
・牛乳や乳製品をよく摂取する
乳製品はカルシウムが非常に豊富ですが、摂りすぎると「カルシウム過多」に傾き、かえってマグネシウム不足を助長することがあります。
・特定の薬を長期服用している
胃薬や血圧の薬などを常用している方は、薬の作用によってマグネシウムの吸収を妨げられたり、体外に排出させたりすることがあります。
■「皮膚から摂る」という新常識
マグネシウムの面白いところは、口からよりも「皮膚から」の方が効率よく吸収できる点です。
私が推奨してるのは「エプソムソルト(硫酸マグネシウム)」や「にがり(塩化マグネシウム)」をお風呂に入れること。これらは塩ではなく、ミネラルの結晶です。
浴槽に入れて入浴するだけで、皮膚からマグネシウムが吸収され、カチカチに固まった筋肉が芯から緩んでいきます。痛いところに直接塗る「マグネシウムバーム」も効果的です。ラグビーの日本代表選手たちも、疲労回復のためにこの手法を取り入れています。筋肉が緩めば血流が戻り、血流が戻れば痛みは消える。これが生理学的な真実です。
人生という旅を「自分の足」で楽しむために
健康とは、病気がないことではありません。
「動きたい」と思った時に、体がすっと付いてきてくれること。そのためのメンテナンスは、決して難しいことではありません。
お金は使えば減ります。しかし、動ける体は、あなたに新しい景色を見せ続けてくれます。
この記事を読み終えたら、どうか一度、椅子から立ち上がってください。大きく息を吐き、足裏で床を感じてみてください。
あなたの人生という旅は、まだまだここからが本番です。
動ける体という「最高の資産」を、今日から一緒に育てていきましょう。
(執筆者プロフィール)
藤原直人(ふじわら なおと)
神戸三宮鍼灸接骨院SORA 院長
日本の医療や治療に疑問を持ち海外のガイドラインを基準とした治療院を2012年に神戸三宮の地に開業。
腰痛治療や変形性関節症を中心に、最後の砦になるべく臨床経験を積んでいる。
自然界や先人の知恵にヒントを得ながら身体の可能性に目を向け、睡眠や超音波研究に取り組んでいる。
患者さんをつくらないをモットーに、講演活動やメディア出演も実績多数。

